Vol.0 ヴィンテージ
時を越えてくるもの
家には、ふるい着物がある。
わたし自身は着物を着ない。ジーンズが好きだ。それでも、畳まれた着物をときどき広げて、縫い目に指を沿わせる。かすかな時間の匂いがする。何十枚もの着物が、静かにそこにある。
高祖母は、明治に生まれた和裁士だった。
家の二階の南向きの部屋が仕事場だったと聞いた。長い裁縫台、温められた鏝、火鉢の赤い明かり。着物を着た高祖母が正座して、しずかに針を運ぶ姿を、曾祖母も祖母もそばで見て育ったという。
その手が、わたしの知らない誰かのために誂えた反物の端切れが、いまここにある。わたしはそれを指でつまんで、光にかざす。百年近い時間を吸って、生地はすこし透けるように薄くなっている。それでも、色は褪せていない。
受け継がれるということ
受け継ぐ、という言葉をよく使う。でも実際には、何かが「来る」のだと思う。能動的に選ぶというより、ある日ふと、時間がやってきて、自分のそばに置かれる感じがある。
着物は、着た人の体の形を覚えている。縫い目の癖に、ほんのすこしの歪みに、誰かの暮らしが残っている。わたしたちはそれを解いて、あたらしい形に縫い直す。古いものが終わるのでなく、続きをはじめる。
ヴィンテージコレクションのこと
エルエルポウズのヴィンテージコレクションは、そういう思いから生まれた。
職人たちが丁寧に仕立てた着物を、できるかぎり丁寧にほどく。縫い目に沿って、時間を逆向きになぞるように。そうして生まれた布片を、ルークやレイアのための小さなアクセサリーに仕立て直す。
ルークとレイアが、そのヴィンテージのリボンをつけて、母のひな人形の前に座っている写真がある。ひな人形は、母が子どものころから飾られてきたものだ。高祖母の時代から続く布が、今の猫たちの首輪についている。そしてその前に、何十年も前から伝わる人形が並んでいる。時間がいくつも重なって、一枚の写真に収まっている。
バンダナひとつに、遠いはじまりがある。それを首輪につけた猫が今日の縁側で眠る。どこかおかしくて、どこかきちんと美しいと思う。時間は、こういう形でも流れていく。
手に取ってくださるかたの、これからの物語がそこに加わることを、いつも楽しみに思っている。