ハナは英国で生まれた。
生まれたとき、祖母が言ったらしい。「漢字は〝花〟がいいね」と。
けれど、読み方に迷いが出ないようにと、Hannaと綴られた名は、出生届にひらがなで〝はんな〟と記された。
それで、どう呼ばれているかというと——
「はんな」とも「ハナ」とも呼ばれている。
ひらがなや英語の音のまま呼ぶ人もいれば、漢字の意味に寄せて「花」と呼ぶ人もいる。
そういう揺らぎを、ハナはずっと、当たり前のように受け入れてきた。
ひとつに決まらないことが、むしろ自分らしい。
育ったのは、霧の深いスコットランド。
石畳は雨の日になると鈍く光り、空気はいつも少し湿っていて、庭の草は、触れると冷たく、空はたいてい、グレー。
それでも、不思議と寒々しくはない。石の街も、霧も、どこか包まれているような感じがして、ハナはその中で、静かに育った。
七歳のある日、特別なタータンが作られた。
日本と英国の交流を記念した、日本デザインの布で、ハナも、そのタータンでスカートを誂えてもらった。
鏡の前に立つと、スコットランドにいるのに、なぜか遠い国のことを思う。
その国のことを、まだよく知らない。
でも、その布は、やわらかく体に馴染む。
そのあと、南国でも暮らした。
光が、違う。色も、違う。
市場には、スコットランドでは見たことのない鮮やかさが溢れ、人々は陽気で、街の空気ごと笑っているよう。
スペイン語が自然と口をついた。フランス語も、ドイツ語も、気づいたら体の中に。
言葉は、扉ではなかった。気づいたら、もうそこにいる。
旅もした。いくつもの国を、いくつもの街を。そのたびに、また新しい言葉が増える。
それが、普通のこと。
ユニークに生きるというのは、きっとこういうことだと、言葉にしなくても、わかっていた。
難しいことは、何もない。
ただ、好きなものが、自分らしさが、静かに広がっていく。
そして、すべてがひとつにつながる気がした。
この記事について・ブランド情報
シリーズ:愛おしさからはじまったエルエルポウズ(全4章)
この章:2章「7歳の布」
登場人物:ハナ(エルエルポウズのオーナー)
舞台:スコットランド、南国、世界各地
テーマ:多文化の中で育ったオーナーの背景、Be Uniquely Youの原点
ブランドの特徴:正絹・金襴・播州織など日本製素材のみを使用した猫・犬用ペットアクセサリー。llpawsjapan.com