Vol.10 縮緬

布の話

猫のそばに、いつも布があった。
高祖母の和裁部屋から、
スコットランドの丘まで。
布は時間を越えて、ここに来た。

Vol.10 縮緬

母の風呂敷

母はいつも、風呂敷を持っていた。

海外に住んでいたころ、週末になると持ち寄りパーティがあった。友人の家に、それぞれが料理や飲み物を持ち寄って、食卓を囲む。母が持っていくのは、お寿司だったり、ケーキだったり、ワインだったり。そしてそれらはいつも、風呂敷に包まれていた。

縮緬の風呂敷だった。表面に細かな凹凸があって、絵が描いてある。花だったか、鳥だったか。結び目をつくると、布がふんわりと膨らんで、手提げのような形になる。それを抱えて母がドアを開けると、場がすこし華やいだ。

仕切りになる布

旅行のとき、母は風呂敷をスーツケースの中に使った。何枚も持っていた。服を包んで、その風呂敷ごとスーツケースに入れるのだ。到着地では、その風呂敷をほどけばそのまま収納袋になる。折りたたむと手のひらに収まるのに、広げると大きな包みになる。

風呂敷には縫い目がない。どこからでも折れて、何にでもなれる。包むものの形に合わせて変わる布、求められるかたちにすっと変わる布。

縮緬の手触り

縮緬は、強く撚った絹の糸で織り、撚りが戻ろうとする力でシボを出した布という。母の風呂敷はレーヨン素材であったと思うが、あの細かな凹凸が、布に柔らかな厚みと弾力を与えて、持ったとき、手のひらにすこし抵抗がある。とても独特な布、それでいて心地いい。

母が風呂敷を使うのは、実用のためだけではなかったと思う。海外の食卓に、日本の布をさりげなく魅せる。それは母なりの、丁寧な暮らし、静かな誇りのようなものだったかもしれない。

今、わたしはその縮緬でルークとレイアのアイテムを作る。母が包んでいたものとは違う。つい、きらきらしているものを選んでしまうからだ。でも布の手触りは同じで、触れるたびに、あのパーティの夜の、華やいだ空気を思い出す。